Q4-3.
労働安全衛生法第66条の8に基づく医師の面接指導について、会社としては、対象者全員に受けさせたいと考えていますが、労働安全衛生規則第52条の3によれば、面接指導は要件に該当する「労働者の申出」により行うものとなっています。
医師の面接指導を受けたくないという労働者に、この申出させるにはどうしたらよいでしょうか。
A4-3.
平成31年4月1日に施行された改正労働安全衛生法において医師の面接指導は、把握した労働時間の状況を元に
(1)時間外休日労働時間が1週当たり40時間を超えて行う労働が1月あたりで80時間を超え、疲労
の蓄積(労働者からの申出があったもの)が認められた労働者(労働安全衛生法第66条の8)
(2)時間外休日労働時間が1週当たり40時間を超えて行う労働が1月あたりで100時間を超えた
研究開発業務従事労働者(労働安全衛生法第66条の8の2)
(3)1週間当たりの健康管理時間(事業場内にいた時間+事業場外で労働した時間)が40時間を超
えた場合におけるその時間について1月当たり100時間を超えた高度プロフェッショナル制度
従事労働者(労働安全衛生法第第66条の4の2)
に該当する場合に医師による面接指導を行うことを義務付けています。
このうち(2)(3)については労働者からの申出がなくとも面接指導を実施することを義務付けたものですが、(1)については確かに労働者が「申出」を行うことが要件となっています。
しかし「過労死」が社会問題化する中で、もともと生活習慣病と呼ばれていた脳・心疾患が、それが業務によって著しく増悪した場合には労災補償の対象になったり、民事損害賠償の対象になったりして、その意味ではもはや個人の問題とは言えなくなってきました。
つまり、使用者にはきちんと労働者の健康管理を実施し、過重労働によって病変が増悪しないように配慮する義務が課せられるようになってきたものですから、労働者が「申出」をしないからといって、安穏としてはいられません。
では、どうして労働者は面接指導を「申出」しないのでしょうか。様々なケースが考えられますが、原則は、申出をしない労働者の事情や目的にしたがって「説得」してゆくしかないと思います。
例えば、同法66条の8第2項但書きで、事業者の指定する医師でなく自分が希望する医師による面接指導を受け、その結果を証明する書面を提出することも可能とされていますので、該当する労働者に主治医がいる労働者の場合であれば、そうした方法を認めてやればよいと思います。
また会社の産業医は、要件に該当する労働者に対して、申出を行うよう勧奨することができることになっています(規則52条の3)から、産業医としても積極的に面接指導をうけるよう説得すべきでしょう。
さらに労働安全衛生法第66条の9では事業場で定める基準に該当する労働者や高プロフェッショナル制度従事者で申出があった労働者についても面接指導の実施、又は面接指導に準じる措置を講じるように努めなければならないとしています。
つまり、”申出をしない労働者”については、会社で定める「基準に該当する労働者」として、面接指導又は面接指導に準じる措置を講じることが可能なのです。
今回の改正では、あくまで本人の申出があった場合に医師の面接指導を受けることとなっていますが、労働者によっては職場環境や仕事の停滞を恐れるあまりに申出をしない可能性も考えられるため、こうした規定を設けたものと考えられます。
このように会社としても、長時間労働を行っているものに対して、場合によっては業務命令として面接指導を受けるように指示することが必要になってくると考えられます。
使用者が安衛法上の労働者の健康の保持増進のための措置を確実に行えるようにするためこれらの措置を課しているのですから、業務命令として面接指導等を受けるように指示することは、その必要性および手段の合理性の観点から当然是認されるものと考えます。
それでもなお、面接指導等を受けない場合はどうなるでしょうか。
「脳・心疾患で倒れても、おまえの責任だ」というのは大人気ないとしても、何度も説得や勧奨を繰り返したにもかかわらず本人が面接指導を拒否すれば、使用者は民事上の安全配慮義務を免れる(少なくとも、医師による面接指導を申し出ないまま過重労働による健康障害が発生しても過失相殺が認められる)という考え方はあり得るでしょう。
但し、この場合でも労災補償は認定基準に基づいて客観的に行われますから、本人の受診拒否によって労働基準法上の補償責任を免れるということはありません。念のため、申し添えます。