1.メンタルヘルス不全者を早期に発見しよう!
メンタルヘルス不全者が罹患している、精神科領域の疾患の診断については、専門の精神科医でも長期間に及ぶ診察が必要である。そのため、みなさんが容易に精神疾患の診断を下すことには多くの危険が伴うので注意が必要です。
しかしながら、周囲にいる人が日頃の些細な変化や以上に気付き、医療機関受診に至るケースも多く見られます。すなわち、リスクの高い精神疾患の徴候を教育的に指導していくことは大変意義深いことになります。
ここで、リスクの高い精神科疾患の代表的な徴候を列挙してみましょう。
希死念慮(自殺願望)…「もうダメだ、終わりだ」等、自殺をほのめかす内容をもらしていた。思いつめた表情等。
幻覚・妄想…周囲に対して非常に疑い深くなる。物事を被害的に受け取る。辻褄の合わない言動。独り笑い(空笑)。独語等
躁状態…自信過剰。大きなことを言う。おしゃべりばかりで集中力が低下し、落ち着かず、仕事にならない。(長電話、口調が攻撃的、注意散漫、浪費、過度の飲酒等)
事故の可能性…ボーとしていて注意力に欠ける
客観的情報…身なりや雰囲気の変化、会話量や内容の変化、独語、空笑、場にそぐわない言動、対人関係のトラブルなど、最近の変化を聞く。
代表的なものに、クレッチマーの気質分類というものがあります。
クレッチマーの気質分類 体型気質精神病質精神障害 細身型分裂気質分裂病質精神分裂病(統合失調症) 肥満型循環気質循環病質躁うつ病 闘士型粘着気質類てんかん病質てんかん
循環気質
外向的で社交的。親切で人情深く、親しみやすい。軽躁性と抑うつ性を揺れ動く性格。つまり、社交的なところと、寡黙で不活発なところを行ったり来たり。
分裂気質
内向的、非社交的で、繊細で過敏なところと鈍感なところが混在している。つまり、神経質で興奮しやすいところと、無関心で自己中心的なところがある。
粘着気質
感情の変化や動揺が少ない。協調性が乏しい。几帳面で律儀な性格。
また、特にうつ病に関しては循環気質のほかに以下の性格傾向があると言われております。
執着器質:
熱中性、凝り性、徹底的、義務感・責任感が強い
メランコリー親和型性格:
几帳面、秩序好き、過度に良心的、他者配慮、仕事熱心
→つまり、うつ病に関しては、一言で言うと「柔軟性がなく、困った状況に対して柔軟な対応が苦手な人」は要注意ということです。しかしながら、現代社会のようなストレスの多い職場環境では、誰でも「うつ病」になる危険性は存在しています。
事情を聴き、状況を把握する
まず、本人と信頼関係がある上司や同僚が、職場、家庭、その他適当な場所で、事情を聴いてあげることです。最初の対応が問題解決の成否の鍵となることが多いので、批判や評価がましいことを抜きにして、時間をかけながら、本当に相手を理解しようとする態度で、誠心誠意接する必要があります。本人から十分に聴けない場合は、親しい同僚、友人や家族などから聴くことが必要になります。
自分たちの手に負えるかどうか判断する
話を聴き、自分たちの手に負えるかどうか、早めに見当をつけます。自分たちで助言できると判断できるときは、もちろん適切な指導や対応を試みます。この場合、押し付けがましいようなやり方は避けるべきです。
専門家に相談する
自分たちの手に負えないと判断したら、カウンセラーや健康管理医、産業医、あるいは専門医と相談し、最善の方法を講じることが必要となります。
緊急時の処置をする
自傷他害やその恐れのある場合は、人命尊重を優先し、力による行動制止や物の取り上げなど、その場で考えられる最善の方法を講じる必要があります。その上で、救急車や警察の手配、家族への連絡などをしなければなりません。しかし、このような場合でも、基本的人権の問題があるということを、肝に銘じておく必要があります。
悩み事の内容を理解する
打ち解けて話せるような雰囲気で、まず悩んでいることをよく聴き、本質を十分に理解する必要があります。相手の身になって聴く、適宜に相づちやうなうずきをする、性急に聴き出そうとしない、誤解のないように話の内容を確認する、途中で議論や忠告をしないなどが大切です。
適切な助言をする
これは悩み事の内容や程度によって様々です。ただ、指示的なものと支援的なものは、区別して話さなければなりません。自分で支援できるようなものであれば、適切な情報を与えたり、本人の認識を改めさせたり、自信や目標を持たせたり、専門家への相談を勧めたりすることになります。気分が落ち込んでいるような場合は、叱咤激励はしないようにします。自分で処理できないときは、もちろん関係者や専門家に相談しなければなりません。
環境の改善を図る
相談内容によっては、身近で解決できるものもあります。そのような場合には、速やかに手を打って、改善を図るべきです。例えば、職場内での人的配置の改善、職務内容の変更などです。相談者以外に問題がある場合や、家庭とか社会的な問題であっても、できることなら解決のために手助けをします。
対応時のタブーは、
うつ状態のときは、「甘えるな!」「辛抱しろ!」の叱咤、「ガンバレ!」「元気を出せ!」の激励などは、かえって自信を喪失させ症状を悪化させる。
「何とかなるさ」「くよくよ悩むことはない」の安易なアドバイスも「真剣に考えてくれていない」などと思わせることがあるので、注意を要する。
相手の話の腰を折ったり、話をよく聴かずに批判したり、反論したり、否定するようなことは絶対にさけなければならない。
必要に応じて、本人の承諾を得た上で、産業医や保健師、職場の上司などから、主治医に対し診察所見を確認することも有用です。(この場合には、守秘義務の問題もありますので、本人の承諾を得るという作業は大変重要です)
具体的には、
状態像・診断…状態像とは、例えば、抑うつ状態、躁状態、幻覚・妄想状態などである。精神疾患の場合、一度診察しただけでは、明確な診断がつかない場合も多くあるが、そのような場合でも暫定診断は付けられていることが多い。主治医に初診の時点で診断がつけられないと言われた場合には、最低でも状態像を聞くことは重要である。
治療内容・期間…今後どのような治療をするのか、また治療期間の見通しを尋ねる。入院ならばその期間、通院ならばその頻度、精神療法(カウンセリング)、薬物療法、その他の治療の内容について尋ねる。
休暇の有無・期間・診断書・復職…休暇の必要性の有無、休職が必要ならばその期間を尋ねる。もし3ヶ月を越える休職が必要であると担当医が判断した場合には、必ずその理由を聞くべきである。精神疾患の治療は長期に及ぶことも少なくないが、抑うつ状態などを理由とした休職期間は大体3ヶ月以下が多いからである。
また、企業の側からも必要に応じて主治医に以下の情報を提供することも有用である。
職務内容…事務職、技術職といった職務内容を職位について伝える。
出勤状況(勤怠)…欠勤、遅刻、早退の有無、勤務態度についての情報を伝える。
職場の対人関係…最近の職場での対人関係が円滑であったか、問題があったかについて伝える。
職場内の情報…家庭の状況など上司、人事のレベルで把握していることについて伝える。
状態を把握する
不適応者個人の人格を傷つけないよう配慮しながら、上司や同僚、場合によっては友人や家族から事情を聴き、現状を把握します。
本人の自覚を促す
勇気のいることですが、職場としては健康上の心配をしていることや困っている理由をできるだけ上司から本人に正直に伝え、自覚してもらうことは重要です。場合によっては、家族を介して、時には影響力のある先輩や同僚ということでもよいでしょう。正直に話すことは、決して悪いことではなく、有益なことが多いです。
信頼関係を損なわないように接する
上司が本人と接する場合には、身構えられないように、自然に接することが必要です。一方的に言うのではなく、本人の言い分にも、耳を傾けなければなりません。批判的な言い方、感情的な言い争いは、厳に慎まなければなりません。信頼関係を損なうことは、かえって悪い結果になります。
相手の身になり根気よく接する
簡単に本人が納得することは少ないでしょう。必要があれば健康管理医、産業医やカウンセラーの所に一緒に行くぐらいの温かい気持ちで接し、根気よく理解させなければなりません。そして本人の立場になって解決策を模索します。
管理者の心構えは、
部下の気持ちの理解と職場の実情の把握
聴く耳、聴く心を持つ
感受性を高める
相手の話の秘密厳守
創造的な職場雰囲気づくり、フランクな職場・コミュニケーションづくり
事態を隠したりしない
本人が休暇や入院を申し出た場合を別として、そうでない場合、本人がいやがったからといって温情で放置したり、事態を隠して表面をとりつくろいながらの休暇にするのは、時にはやむを得ないかも知れませんが、かえって状況を悪くする危険があります。
専門家に相談しながら対応する
不用意に上司や同僚が介入すると、本人や家族からに恨まれたり、事態を悪化させることにもなりかねません。従って、緊急を要する場合以外は、健康管理医、産業医や専門医に相談しながら、対応することが望まれます。
医師や本人または家族に伝えてもらう
医師との相談がまとまったら、休ませる必要のあることを、医師から本人または家族に伝えてもらうことが、最も良いと考えられます、この場合、上司をその場に同席させてもらうとか、本人の目の前で電話をかけるような、配慮をしてもらいましょう。
これにより、本人に心の負担を軽くする効果があり、また家族の理解も得やすくなるからです。そして十分な保護と治療の効果が期待できる環境が整うことになります。
本人と接触する前に、あるいは本人とは別に、医師に相談することが必要な場合があります。また、相談する医師が、健康管理医、産業医、嘱託医、あるいは外部の専門医であったりします。相談する医師によって、職場の事情を知っている度合いが異なりますが、医師の質問に対してある程度まで答えられる者が、相談に行くべきです。
相談のポイント
主なポイントとしては、次のようなことが挙げられますが、必要に応じて省略したり、他の必要なことを追加したりしなければなりません。
職場において実施した本人の健康診断の経過や病歴
職場における日常的勤務状態と問題となる変化状況や職歴
発症契機となった状況や時期
職場における本人の立場や人間関係
家族構成、家庭環境や特に変わっている場合の社会環境
客観的に見た本人の性格
職場として何を求めるのか、どの程度の配慮を考えているのか
以上のようなことですが、これらを簡潔、明瞭にそして要領よくまとめて、相談事項を一覧にして、相談すればよいでしょう。
信頼されている者が接触する
カウンセラーや医師に依頼できれば最善ですが、職場の者が接する場合は、本人または家族と信頼関係が強い者をその任に当たらせることが望ましいといえます。そして、できるだけ自然な形で接触するよう心がける必要があります。職場に呼び出すようなことはあまりせず、自宅を訪問するとか外で会うなど、話しやすい状況をつくることが大切です。
誠意を持って共感を得られるように話す
最初は身近な話題等で、さりげなく切り出すのがよいでしょう。家族が気付いていない場合は、なかなか理解が得にくいものです。家族は本人との一体感を持っていますし、上司や同僚では、医師のように説得力もありませんから、共感を得られるような話し方をしなければなりません。例えば、誠意がない、嘘や何かを隠しているという受け取られ方や、本人には内緒にしたいような言い方では、家族の方でも警戒してしまいます。
高圧的にならない
管理監督者自ら事情を聴く場合は、高圧的な言い方や、管理監督者であるということをちらつかせることは避けなければなりません。
家族から自発的に訴えてくる場合もありますが、そのような場合には、まず、直属の上司が対応するのが望ましいといえます。
心の病に対する偏見が本人にあることを認識する
直接受診を勧める場合には、身体の病気と違って、本人に病識がなかったり、医療を受けたがらなかったり、また本人は心の病に対する偏見から精神科受診に強い抵抗のあることを、まず念頭に入れておかねばなりません。
影響力のある者が勧める
受診勧奨は、必要に応じて、医師や家族などと連携して行うこともあります。直接受診を勧める場合には、次のようなことに注意してください。
本人に対して良い意味での影響力のある者が、勧奨の任に当たります。自分の席に、そのためだけで呼びつけるようなことは、避けた方がよいでしょう。本人との常日頃の接し方にもよりますが、自然な形で場所を選ぶと良いと考えられます。
一緒に考え支援し根気よく勧める
心で心を開くことになりますので、一緒に考え支援する、必要があれば自分も一緒に、医師のところに同行するぐらいの心構えが欲しいものです。警戒心や不安感、恐怖感を与えないよう、自然に接していきます。説教的、忠告的な態度とか、不信感を持たれるような態度は、あまり感心できません。
勧奨の際に、本人が感情的な動揺、激しい口調、そして荒々しい態度をとることもありますが、これを一旦は受容します。また、うつ状態にある場合は、叱咤激励のようなことは避けます。そのようにして時間をかけながら根気よく受診を勧めます。
家族や、その人が信頼している人が勧める場合
メンタルヘルスの不調に家族や友人、同僚などが気付いた場合、受診を勧めるのは気が引けるかもしれません。それは、メンタルヘルス不全に関する色々な誤解や偏見があるからです。
しかしながら以下のように考えてみると、その誤解や偏見は少し解消されるのではないでしょうか?一般的にメンタルヘルス不全は頑張って働いた人がなる病気です。つまり、働かない怠け者はメンタルヘルス不全にならないのです。メンタルヘルス不全は一生懸命働いた副作用と考えてみることが重要です。
メンタルヘルス不全の場合、受診されれば問題の半分は解決したようなものです。ポイントは心配していることを率直に伝えることです。
「この頃、眠れていないようだし、だるそうな感じで心配です。心の不調かもしれないので精神科を受診したらいいかもしれないね。」
職場の上司が勧める場合
プライバシーが保たれる個室で悩みを聴いてあげましょう。ただし、コメントをはさんだり励ましたりしないように気をつけましょう。
あいづちや促しの言葉などを挟みながら話に傾聴し、時には「それは辛そうだな」などと共感しながら、その時の辛い気持ちを受容してあげることが重要です。
「そんなこと言わずにがんばれよ」「何弱気なこと言っているのだ」などはタブーです。まして説教などは論外です。
ただ事実無根なことが出た場合、「ボクはそうは思わないけど、君がそれで悩んでいるのはわかった」と相手の言っている内容を受け入れるのではなく、言いたい気持ちを受容してあげましょう。その上で、「ストレスがだいぶたまっているようだね。産業医を受診したほうがいい。」あるいは「専門医を受診したほうがいい。ストレス関係の専門医は神経科だとボクは思うよ」など明確に言うことです。
また、体の症状を聞き出すことは有用です。
だるい、眠れない、食欲が出ないというのはメンタルヘルス不全の身体の主症状であることが多いです。
ポイントはメンタルヘルスが不調であるかもしれない部下の悩みや問題点を解決することではなく受診の動機づけをすることです。
しかしながら、一般的に精神科や心療内科は受診の敷居が高いと言われ、『自分は気違いではないのだから受診する必要はない』と受診を拒否されるケースは多く見受けられます。
そのような場合の受診は、あくまで本人の意志に基づくことが大切です。強制的に受診させても、不信感が強くなり、かえって服薬しなくなるケースも有り、このような場合は治療も困難なものになります。
そこで、まずは本人の意志で受診させるために以下のようなことを聞きながら、本人に自分は普通の状態とは少し違うということを認識してもらうことが重要です。
「最近あなたをみていると非常に辛そうだけど何かあった?」
「最近眠れていないみたいだけど大丈夫?」
「最近食欲が落ちてきてしまっているみたいだけれど、何かあったのかしら?」
本人が自分の体の不調に気付けば、受診への誘導は行いやすくなります。
また、精神科や診療内科を受診することに対して強い抵抗感を示す場合には、以下のような対処方法が良いでしょう。
「病気かもしれないし、もちろんそうではないかもしれない。でもあなたを見ているととても辛そうです。もし心の病気ならば今は良いお薬があって、とても良くなるそうですよ。お医者さんに診てもらった結果、病気でないというなら、それはそれで結構なことですね。」
「今は精神科の敷居もだいぶ低くなって、元気のなくなったビジネスマンは結構気軽に受診するそうよ。なんなら一緒についていきましょうか。」
「最近のニュースで見たのですが、優秀で仕事をバリバリこなす人は、精神的に疲れてしまうことが多いそうね。あなたもこの会社の大黒柱としてバリバリ働いていたからね。たまには心のメンテナンスをしてみたら」
「人間ドックで体の健康診断をやってもらうような気持ちで、心の健康診断をやりに受診してみましょうよ」
受診される場合には、プライバシーには十分に気を付けましょう。というのもまだまだ精神疾患に対する偏見は大きなものがあります。受診者は受診したことがその後の会社での立場や待遇に影響を及ぼすことを大変心配します。その不安をぬぐい去るためにも、個人のプライバシーに十分な配慮することは大切なものです。
しかしながら以下のようなケースでは、強制的にでも受診を促す必要がありますので、十分に注意してください。
自殺をほのめかす発言や行動がある場合
他人に対して当り散らしたり、攻撃的な態度をとったりする場合
家族が遠隔の地に住んでいるような場合でも同じです。家族も気付いていない場合が少なくないので、一般的には、まず家族とだけの接触と説得から始めます。
慎重に根気よく話し合いを重ねる
普通、家族は肉親として本人の側にありますから、職場環境、職場側の管理不手際や行き過ぎを指摘することがありますので、話の持って行き方は、特に慎重でなければなりません。また、簡単に家族が納得するとは限りませんので、根気よく、努力を重ねなければなりません。
家族の方に出向き誠意を持って話す
家族と接触する際に注意すべきことは、次のようなことです。
緊急な場合以外は、できるだけこちらから家族の方に出向いて行く
できるだけ早く治したいため、協力は惜しまないという気持ちで臨む
本人の問題行動に気付かせるような、共感を求めるような言い方をする
誠意を持って臨み、嘘や隠し事は極力しない
家族の感情を逆なでするような言い方はしない
家族が感情的になっても、平静でいなければならない
本人に内緒にしたいということは、言わない方がよい
家族を無視するようなことはしない
以上のほか、ケースによっては、健康管理医、産業医、専門医やカウンセラーなどに相談し、必要に応じて、そちらからも家族に説明してもらいます。
次に、本人が激しく興奮していて話にならないような、緊急に近い状態の場合でも、できるだけ家族と相談し、家族の責任で受診させるようにします。家族を無視しますと、後々までしこりを残すことになりかねません。
しかし、再三の努力にも関わらず、どうしても家族の協力が得られない場合には、家族以外の者に協力を求めざるを得ない場合があります。
兄弟や親戚の協力を求める
独立して居を構えている兄弟がいれば、その人を通じて、家族を説得してもらうことが考えられます。その次には、親交のある親戚の人が考えられます。これらは、一族という親近感からか、受診や入院の同意が得られやすいことがあります。
友人の協力を求める
家族がいないとか、家族や親戚と疎遠である、あるいは親戚を介しても同意しないなどの場合には、本人が信頼していると思われる友人を介して、受診を勧めることが考えられます。友人からの勧めで、本人が受診したという例もあります。
医師や先輩、恩師などに協力を求める
何か別の病気で通院している場合には、その医師に協力を求めることもできます。しかし、これは職場よりは健康管理医、産業医など、医師同士を通じて行った方がよいようです。
その他、本人が尊敬していると思われる先輩や恩師、親しくしている近所の人などが考えられます。外国の人で家族と疎遠な人については、大使館や領事館、場合によっては、交流関係の協会等が考えられます。
本人の人格を傷つけないよう配慮する
いずれの場合も、本人の人格を傷つけるようなやり方や、本人が職場の者を信用しなくなったり、恨んだりするようなことにならないよう、細心の注意を払わなければなりません。
具体的には、以下の1~4の順序で進めていくとよいでしょう。
主治医に、復帰時期が妥当なのかどうかの診断書をもらう。
その診断書を参考に、産業医と本人の面接を行う。
そして、産業医の判断も職場復帰可能であるなら、本人、上司、産業医の3者で面接を行い、以下の点について話し合う
。(このとき、本人と産業医、上司と産業医が、事前に個別に面接していても良いでしょう。また、主治医に意見を伺う事も大切です。)
復帰日
復帰後の部署
復帰後の就業時間:通常、最初2週間は、半日勤務。その後は、産業医との面接にて就業時間延長かどうかを再度、確認します。
復職後の通院の周期
本人、主治医、上司、産業医の4者の意見合意の上職場復帰。
※産業医がいない場合は、衛生管理者が行います
メンタルヘルス不全の場合、治療によって症状が取れることと、働く能力(ワーキングパワー)が元に戻ることにはズレがあります。このズレを埋めるのが段階的復帰なのです。これは、スポーツを例に例えると、練習する場合、急に走り出してはいけないのであって、ウォーミングアップが必要です。休場した相撲力士が復帰する場合、いきなりぶつかり稽古はしません。まずは、シコを踏むことからします。段階的復帰は、ウォーミングアップなのだと職場全体が理解することが重要です。
(段階的復帰の具体例)
たとえば、二週間は半日勤務、次の二週間は一日勤務だけれど残業はしない、など。
ただし、主治医が職場復帰可能という診断書を書いたとしても、どのように復帰してもらうかの決定権は事実上職場の管理者になります。実際に職種や業務内容によって復職のタイミングは大きく異なります。職場の状況を良く把握している産業医や安全衛生管理者がいる場合には、そのような人との話し合いながら段階的復帰を成し遂げていくことが重要です。つまり、診断書は職場復帰の参考資料に過ぎないと考えて頂いた方が良いでしょう。
つまり、管理者が職場の利益と復帰する人の利益を対立させて考えた場合、人事権をもった管理者が復職を許可しない場合もありえます。実際にそういう傾向が今の現実のようです。ただ心の病を克服しようとしている人の願いよりも、常に職場の利益が優先される判断がされる場合、その職場ではたらく人々の中にメンタルヘルスへの偏見が作られていくでしょう。しかも、「心の病気になって休職した場合、職場復帰は困難だ」という見分が定着すれば、心の不調をきたしても、誰も健康管理室や医者に行かなくなる恐れがあります。
管理者にとって、目先の利益が重要なのは当然のことですが、職場復帰に際し、あまりにそれに固執しすぎると、職場のメンタルヘルスをさらに悪化させる可能性が大いにありますので注意が必要です。
普通に接する。腫れ物に触るように気を遣わない。
一般的な身体疾患で入院し、休職していた場合、めでたく退院してもしばらく無理をせずマイペースで仕事に復帰していくことが重要です。その際、周囲の気遣いは大変ありがたく、心強いものですが、度を超える気遣いや配慮はかえって本人の職場復帰を妨げることになります。例えば腰痛で休職し、職場復帰する際に「何か重いものを運ぶ時は遠慮なく言ってくださいね」と言われれば、非常に本人の職場復帰の手助けとなります。しかしながら、ことあるごとに、「無理するなよ」「重いものは持たないで」などと言われてしまうと、かえって職場に居辛くなってしまうものです。
つまり、メンタルヘルス不全者の職場復帰においても、ケガや体の病気になって職場復帰した人と同じように、普通に接することが肝要なのです。
うつ病の場合、励ましは禁物。
一般的にうつ病は『頑張りたくても頑張れない状態』と言われています。うつ病になった本人は、思考が通常よりも遅くなってしまっているため、仕事を通常通りにこなすことができません。本人はその状態を打開しようと精一杯頑張っているのです。そこへきて周囲の人は分かってくれないんだろう・・・』という状態に陥ってしまい、余計に悲観的になってしまいます。職場復帰に際しても、本人の回復状況にあったペースで段階的に行っていくことが肝心です。一般的な評価ではなく、その人なりに評価してあげることが重要です。
受診を定期的に行い、薬を飲み続けてもらうこと
再発を防ぐためには、薬物療法を続けることも重要なポイントです。しかし、うつ病になるような方は真面目で律儀なため、「周りの人に治ったことを認めてもらいたい」という気持ちが強く、薬をやめることにこだわって、いつの間か受診しなくなる人がいます。
なかには治療が中途半端で、患者さん自身が「うつ病という病気」になっていることを認めないで、「疲労だ、気のせいだ、自分は根性がないからだ」などと考えている場合もあります。うつ病は、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病に似た慢性病です。職場のうつ病の場合は、働き方にも問題があって、そういう意味では「ビジネス習慣病」ともいえましょう。とりわけ上司は、「医者が良いというまで通院するのですよ」と指導するとよいのです。もし、その部下の患者さんが「もう症状が取れたし、受診で休むのは皆に迷惑をかけるから」という反応をしたら、「しっかり受診して、健康管理をするのも、あなたのお仕事です。」などというのが良いでしょう。
療養期間中は大事な決定をしない
うつ病の方は、過去、現在、未来にたいして否定的な考え方をしがちです。たとえば、「こんな自分は皆の足手まといだから会社を辞めたほうが良い」などと思うものです。病気によってものの考え方、捉え方がゆがんでしまっている状態なので、そういう時には、一般的に大事な決定は先延ばしにしたほうが良いといわれています。
スタッフの方の場合、メンタルヘルス不全者の分の仕事を、何とか自分が穴埋めしようと思わないことが重要です。一日や二日であれば、無理も利きますが、メンタルヘルス不全者の職場復帰には時間がかかります。その間、自分がその仕事を全て何とかしようと考えてしまいますと、あなたにとって多大なストレスになるばかりでなく、復職を目指している人にとっても『迷惑をかけてしまっている』という気持ちから心理的負担になってしまいます。このような場合は、ざっくばらんに言えばあなた自身が考えるべきテーマではありません。まず管理職に相談し、職務の内容について決めてもらいましょう。
管理職の方の場合、まずは段階的な職場復帰が重要であるということを頭に入れてください。マラソンをしたいと考えても、いきなり42.195キロを走ることはかなり無理が生じます。まずは5キロのランニングから始まり、10キロ、15キロと延ばしていくことが重要です。メンタルヘルス不全者の職場復帰もいきなり42.195キロを目指さず、まず5キロからと一歩一歩進めていきましょう。また、その際、他の人が残りの37.195キロを代わりに走るとなると、さらにメンタル不全者を生んでしまう可能性があります。職場でメンタルヘルス不全者が発生すると、その人の状態ばかりに目がいってしまい、職場全体のメンタルヘルスに目が行き届かなくなる傾向にあります。復職中の社員の仕事は、将来への投資と考え、他の社員に無理がかからないように調整をしてみてください。
ちなみに好ましくない対応例としては、下記があげられます。
足手まとい
その人の分の負担がくるから迷惑
しっかり治してガンガン働けるようになってから出て来い
怠け者じゃないの?
心に思うことは態度に出てしまいます。このような職場は、職場そのものが病気であって、メンタルヘルス悪化のドミノ倒しになるでしょう。こういう発想で仕事する職場や会社は中、長期的に見て業績が悪化する傾向がありますので、管理職や経営者はふんどしを締めなおした方がよいといえるでしょう。
風邪であれば、1週間程度風邪薬を飲み続ければほとんどの方が治癒します。しかしながら、うつ病の場合薬が効くためには最低1週間から長ければ1ヶ月程度かかると言われています。また、薬が奏効し状態が快方に向かったとしても、株価の変動のように症状は良くなったり、悪くなったりを繰り返します。結果的に1ヶ月単位で見ると良くなっているというのが、うつ病の治療となります。そのため、薬を服用する期間も数ヶ月~数年に渡ります。
個々で重要なことは、個人の判断で服用を中止したり、減薬したりしないことです。調子が良くなると、もう大丈夫と自己判断で薬の服用をやめてしまう方が多くいます。そのような方の大半は、うつ病を再発させてしまいます。そのため、服薬の中止や減薬は主治医と相談しながら慎重に行いましょう。また、服薬を中止した理由が、うつ病の治療薬の副作用(眠気、吐き気、便秘、口渇など)の場合も、勝手に服薬をやめずに、主治医にその旨を伝え、薬剤の変更などの希望を申し出ることが大切です。
また、ストレスと上手に付き合う方法を身につけることも重要です。もちろんストレスの原因となっている職場問題に対処し、それを解決していくことは最も重要です。しかしながら、職場の問題は次々と生まれてくるでしょうし、その全てを解決するのは不可能です。
一般的にストレスと上手に付き合う方法には、外的ストレス処理と内的ストレス処理があると言われています。
外的ストレス処理とは、一般的に言われるストレス発散のことであり、具体的にはお酒を飲みに行ったり運動したりすることです。皆さんも学生時代に行っていたストレス発散方法をもう一度行ってみたり、新たな趣味を模索してみることは有用です。
内的ストレス処理とは、ストレスイベントをストレスと感じないような能力を身につけることです。そのために今までに成功した体験を3つ思い出してみましょう。うつ状態になると、人の考え方は、ついつい失敗したことや悲観的な予測に偏ってしまいます。そこで、まずは今までの成功体験を思い返し、自分にもまだまだできることがあるのだと認識することが重要です。
物事の主語を『自分が』に置き換えさせてみましょう。
人は、やらされる仕事に対して大変なストレスを感じます。上司から押し付けられた仕事を成し遂げなければならないことは苦痛です。そこで今まで『上司が言ったから仕方なくやった』という仕事のとらえ方を『上司に言われて嫌だと思ったが、これは将来の自分の為にとって何か役に立つと思い、自分が決断して行った』と考えれば、くだらない仕事に対してもある程度の意味を見出せるかもしれません。
主治医との情報の共有
職場に復帰した従業員を一定期間追跡して、適応状況を評価する。以下のように、復帰後の面談を実施し、その面談結果をもとに本人の承諾をとり、主治医、産業医と情報を共有する。
面談時期→設定した就業制限が終了する直前、1ヵ月後、3ヶ月後、以後は原則ケースバイケースである。
確認事項→(本人に対して)体調、職務遂行状況、困難を感じている点、通院の有無
(上司に対して)(本人に主治医と連絡を取ることへの同意を確認後)職務遂行状況、今後の職務負担の見通し、対応上の困難・質問
主治医との情報の共有
面談をもとに主治医へ提供する情報
まず、産業医が主治医と連絡を取ることへの同意があることを説明する。次に、実施した面談をもとにして、最近の本人の職務内容と勤務状況、本人の職務遂行や調子についての自己評価、上司から見た評価と上司からの質問、今後の職場の状況などについて主治医に情報を提供する。
主治医から情報を取得する
主治医から得る情報は、本人の最近の病状、上司からの質問への回答などである。上司の質問に対する回答は、当然上司に伝達する。また、職務等に関する主治医の意見がある場合は、産業医として吟味し、必要に応じて産業医意見として職場へ反映させる。